おお! レオン!

kimgood2007-01-13

リュック・ベッソンの傑作
リュック・ベッソンの映画はけっこう見ているほうかもしれない。といっても、監督作品は意外と少なく、「ジャンヌ・ダルク」を抜かして「グランブルー」「レオン」「フィフスエレメント」「アンジェラ」、製作・脚本では「ニキータ」「ヤマカシ」「キッス・オヴ・ザ・ドラゴン」「トランスポーター」「TAXI」「TAXI NY」「ダニー・ザ・ドッグ」あたり。なかでダントツが「レオン」、もう何度見たか分からない。名作と言われる「グランブルー」は少しもいいとは思わない。女優のロザンヌ・アークエットは雰囲気があった。最新作「アンジェラ」は期待して見たが、残念ながら出来は良くなかった。「フィフス」は1回しか見ていないので、さして記憶に残っていない。
「レオン」は傑作である。ユーモアもあれば、狂気もある、愛もあれば、ペーソスもある。いろいろ小技も利いていて、全編、飽きがこない。
初見で、レオンが字が書けない、お金の計算もできないと知ったとき、涙を禁じ得なかった。親分格のダニー・アイエロにいいようにおもちゃにされているのが、悲しい。
冒頭のシーンで、依頼の仕事をまるで忍びの者のような技でこなすところがある。ベッソンの東洋趣味を考えれば、レオン=忍びの者説はあながち見当はずれではないのではないか。何回か見ていると、ここのシーンが少しダレる感がある。ターゲットのボスの演技が大げさすぎるのである。導入部でレオンのすごさを印象づけたいということなのだろうが、ちょっとね、である。
「レオン」のゲイリー・オールドマンの悪徳刑事は、あまりにも有名過ぎて、今さら何のコメントを、という感じである(ショーン・ペンと共演の「グレース・オブ・タウン」でキレまくっている)。掌サイズの小さな平べったい箱を振り、中から錠剤を取り出し口に入れ、天井を向きながらガギッと音立てて噛む様子を、カメラは真上から撮る。思い出すのは「タクシードライバー」のデ・ニーロが同じく薬を飲むシーン。天井を向いて、体を振らして、薬を飲み下す。おそらくその発展形だと思うが、オールドマンのキレ方は半端ではない。きっと彼自身のアイデアだろうと思う。
人を脅す場面なのに、ブラームスがいいとか、モーツアルトは軽すぎるとか、まったく別の話をするところも、いい。直接脅すより、こっちの方が怖い。蛇ににらまれた感じである。彼が人を殺すときは、頭のなかでベートーベンが鳴っている。これも「ゴッドファーザー」の有名なシーンを思い出させる。オペラが流れるなかで、反対派を一斉に粛清する見事なシーンがある。残酷なものは、背景に美しいものがあると、余計に身の毛がよだつ、という好例である(シシリーでマイケルは婚約者と幸せの絶頂、しかしすぐに暗転して彼女は爆死する。ここにも美と恐怖の連合がある)。
12歳のマチルダが18歳と偽って、レオンを“籠絡”していく過程は、実に陰影に富んで面白い。シャンパンを飲んで、マチルダが笑いが止まらなくなるシーンも、彼女がレオンのプレゼントの服を着るシーンも、印象深い。なんとナタリー・ポートマンの演技の達者なことか。マチルダは「自分はもう大人、あとは1年1年、歳をとっていくだけ」と言い、レオンは「おれは歳はとったが、これから大人になっていくんだ」式のことを言う。マチルダの方が完全に年上である。


*ユーモアがいっぱい
この映画が成功している一因に、ところどころに差し挟まれているユーモアを挙げたい。冒頭にマチルダが自室の惨殺場面をやり過ごして、レオンの部屋のブザーを鳴らす。3度鳴らし、4度目、やっと扉が開き、その瞬間サーッとまばゆい光がマチルダを覆う。なんとベタな、と思うが、ごく自然に見ていられる。ぼくはここに監督のユーモアを感じる。
あるいは、マチルダがゲームをしようと誘い、チャップリンやモンローのマネをし、レオンがジョン・ウェインのマネをするシーン。レオンはチャップリンもモンローも知らない阿呆だし、マチルダジョン・ウェインではなくクリント・イーストウッドと答えるのは仕方がない。マチルダジンジャー・ロジャースのマネをしてやっとレオンはビンゴなのだが、なんでマチルダジンジャー・ロジャースを知っている? というのは不問に付すところ。
殺し屋(クリーナーと言う。掃除屋)になりたいマチルダを実地訓練に誘い、ターゲットに実弾のかわりに赤インクを発射するシーン。胸や腹にインクが付いてパニクるターゲットをほったらかして、レオンが「心臓を狙わないとダメだ」みたいなレクチャーをするシーン。
レオンがいなくなると、マチルダがテレビをつけ「ガンダム」のようなアニメ番組を見るシーン。
チルダの殺された義姉は、ダイエット体操番組を見るのが好きだったのが、マチルダは自分のアニメ番組とかち合う時間帯なので、いつも姉と口喧嘩。ところが、レオンに弟子入りし、毎日腹筋をはじめ過酷なトレーニングが始まると、サボって姉の好きだった番組を見るようになる。
レオンたちは安ホテル暮らしなのだが、2人は親子だという設定。マチルダジュリアード音楽院受験が控えている、というウソをつく。それはレオンが銃器をバイオリンケースに入れて持っていたからである。しばらくして、ホテルのポーターが「お父さんの仕事は何?」と聞かれて、彼女は「音楽家」と答える。ついでに「実は父親でなくて愛人」と言い、ポーターを唖然とさせる。もちろん、すぐに立ち退きとなる。

「レオン」はとても膨らみのある映画である。イタリア系と悪徳警官の結びつきなども面白い。スティングのテーマソングもいい。池袋の中古レコード屋に息子と行き、アルバムを見つけて買ったことを思い出す。