社長シリーズ

kimgood2014-10-25

飛び飛びに見ている社長シリーズをここにまとめておくこととする。
その前に作品の一覧を掲げる。見て分かるように、1作を除いて正続で作られている。続はほぼひと月後の封切りが守られている。高度成長期に向かって、一散に作られた映画であることが分かる。


社長シリーズ

1 へそくり社長&続 千葉泰樹    1956.1.3
2 はりきり社長&続 渡辺邦男 単発作品
3 社長三代記&続  松林宗恵
4  社長太平記     松林宗恵青柳信雄 カラー作品
5 サラリーマン忠臣蔵&続 杉江敏男
6 社長道中記&続  松林宗恵
7 サラリーマン清水港&続 松林宗恵
8 社長洋行記&続  杉江敏男  フランキー加入
9 社長漫遊記&続  杉江敏男
10 社長外遊記&続  松林宗恵
11 社長紳士録&続  松林宗恵  シリーズ最終作
12 社長忍法帖&続     松林宗恵  1965.1.3
13 社長行状記&続     松林宗恵
14 社長千一夜&続  松林宗恵  続でのり平とフランキーが降板
15 社長繁盛記&続  松林宗恵
16 社長えんま帖&続 松林宗恵
17 社長学ABC&続     松林宗恵 1970.1.5 森繁は会長、小林桂樹が社長。




「へそくり社長」
56年の作で、記念すべき大ヒットシリーズの第1作である。千葉泰樹監督。シリーズは33本も続き、データを見ると必ず正続の2本ずつの放映だったらしい(実際には1回で撮ったらしい)。ゆえにこの映画も最後に「第一部 完」と出る。
モノクロで、大ヒットシリーズとなったとは思えない静かな出だしの作品である。三木のり平がほとんどちょい役みたいな出で、DVDでの息子(役者)の解説ではまさに飛び入りだったらしい。ラストに森繁社長が得意のどじょう掬いを踊るのだが、勝手が分からず、撮影所の隣で撮影していた三木に助っ人を頼み、そのまま出演陣の一人に収まったらしい。最初に株主会の場面があるが、そこに目に変な隈取りをした三木が上目遣いの目つきで、ひと言も発せず座っているシーンがあるが、あれは台詞がなかったので、ああいう処理になったのかもしれない。こっちが後撮りなんだろう、きっと。


珍しいのは森繁の妻役が越路吹雪で、妖艶と言おうか、夜の世界の人と言おうか、ちょっと異な感じの社長夫人である。二人はなかなかのアツアツで、寝坊の夫を起こそうとすると、「君が昨日、寝かせなかったからだ」と森繁が答え、キスをねだる。あるいは、森繁がお風呂に入っていると、「お背中、流します」と婦人が入ってくる様子。すっとスペースを開けながら森繁がつくる表情の、何とも言えない味わい。こういう森繁流演技があちこちに顔を出す。
森繁が妻の威光で社長になれた、という設定が観客の共感を呼ぶ仕掛けになっている。実力はないが、社員には慕われている。どこか抜けていて憎めない。先代社長の奥様は、どじょう掬いなどはしたない、小唄でも習いなさい、と叱りつけるが、そんなところも観客には好感である。


「社長太平記
もと海軍の仲間3人が下着会社に集う。いちばんの下っ端が社長(森繁)、曹長(小林桂樹)が専務、艦長が課長(加藤大介)である。社長は妻の父親が創業した会社を継いだかたちである。この3人の顔、小学生のときによく見たものである。とても懐かしい。


それにしても冒頭、戦艦でドカンドカンと戦うシーンから始まるのには驚きである。59年の作だが、戦争賛歌と見紛う出だしである。あるいは、「海軍バー」なるものも登場する。昔懐かしい軍人たちが集うバーだが、そこではヌードも行われる(配役名にジプシー・ローズの名がある)。
ただ、中身を見ればいくつか皮肉を効かせてあるのが分かる。たとえば、早食いが得意な森繁が曹長から、賢くも天皇陛下が下さったものだからゆっくり食えと諭される。しかし、艦長は見上げた心がけだと褒める(この早食いの癖が抜けず、戦後も家庭で料亭で所構わずやるのがギャグの1つである)。あるいは、3人が「同期の桜」を歌う場面、「同じ国体の庭に咲く」を「同じ会社のなかに咲く」と言い換えてある。


営業部長が三木のり平、吸い付きブラジャーを付けながら、社長から「踊ってごらん」「回ってごらん」と言われ、タコのようにくねくねするのには笑ってしまう。欽チャンが次郎さんをいじったコントを思い出してしまった。
ただし、この映画、三木の出番が少なく、次作以後の課題ではないだろうか。ライバル会社の専務が山茶花究で、ちょっとしか出ていないが、存在感あり。スマートでいながら、嫌みな感じはきっちり出ている。
例によって淡路恵子がバーのマダムの役で、この人、ぼくはほかの役を見たことがない。幼少のみぎりから気になる女優さんではあった。


この淡路が惚れるのが小林桂樹、森繁に仲介を頼むが、工場の火事騒ぎが起きて、その話がどこかへ飛んでしまう。いい加減なものである。


充実した作品で、続編ができたのはよく分かる。ラストで森繁と加藤大介がヒゲを剃って新規巻き直しを誓うところなど、制作側もシリーズ化のつもりで作っているのがよく分かる。


「社長三代記」
シリーズ4作目で、58年の作。まだ白黒である。このシリーズは基本的に正続のつながりで作られていて、先代が創業者(河村黎吉で「三等重役」シリーズズで社長を演じ、部下に森繁がいた。「社長シリーズ」の社長室には彼の肖像写真が飾られている)で、その後を継いだのが森繁。先代の奥様が会長で、これに頭が上がらない。三好栄子が演じているが、この女優さんは怪優と言っていいのではないだろうか。木下恵介の「カルメン純情す」の怪演が記憶に鮮明である。その会長の娘が跳ねっ返り。会社の秘書が小林桂樹経理部長が三木のり平、営業部長が加藤大介という布陣である。ぼくは子どものころに見ているはずだが、鮮明な記憶がない。なにしろクレイジーキャッツで育った年代だから、この種のおっとりした喜劇にはなかなか子どもは反応しなかったのではないだろうか。ちょっとしたお色気が添えてあるのも、大人向けだった証拠である(誤解がないよう言い添えるが、かのドリフターズにしてもお子ちゃま向けにネタを作ったことは一度もなく、いつも狙っていたのは大人だったそうである)。


社長道中記
シリーズ10作目。太陽食料の社長が森繁、大学生ぐらいの娘がいて浜美枝小林桂樹は秘書ではなく、社長のお供を無事こなしたら課長に出世できる、という。新製品がカエル、マムシ、カタツムリの缶詰。これを出張して拡販しようとする森繁、そこに女が絡む。のり平の芸の細かさを堪能する映画である。浪曲を唸るがうまい。


社長漫遊記
第13作、監督杉江敏男である。森繁はあと半年で50歳と言っている。すでに孫がいる。アメリカ帰りでアメリカかぶれ、それを社内に徹底しようとしてチグハグが起きる。淡路恵子、池内純子とぎりぎりまでいくが、例によって邪魔が入ったり、事件が起きたりで、ベッドインに至らない。結局は奥様が現れて、めでたしめでたしの終わりである。不倫などしようものなら、観衆が許さなかった、ということか。三木も加東大介小林桂樹も快調である。フランキー堺がまた変な日系外人役、変調英語のあいだに「おまえ」など挟むのが面白い。


社長紳士録
監督松林宗恵、20作目である。森繁が常務から支社の製袋屋の社長になり(前社長が左卜伝)、ライバル会社社長とクラブのママや、熊本の取引先の取り合いやで頑張る、という設定。子どもが3人いて、長女には岡田可愛。熊本の会社社長がフランキー堺で、衆道の人で、社長と一緒に来た総務部長の三木のり平の宴会芸を見て惚れる。この宴会芸がこの映画の呼び物となっているが、確かに笑わせられる。旅先で池内淳子が積極的に迫る芸者を演じるのは、いつものこと。艶笑話が多く、朝から女房と事に及ぶようなこともしている。小林先生がおっしゃった、森繁の人より半拍早い演技というのは、見ていてよく分かった。相手の言葉の尻にかぶせるようにサッと言うのである。シリーズはこれをもって終わるはずが、人気がそれを許さず、続編が作られた。


「社長行状記」
シリーズ23作目、映画の後半は森繁が金策に日本全国を回る。前半はディオールならぬチィオールとの提携話にいそいむ顛末である。フランキー堺がフランス生まれの奇妙な日本人で、ティオールの日本支配人で、女と見れば見境がない。


恒例の宴会芸はグループサンズもどきである。箒をギターにして、芸者衆の三味線をバックに踊る。森繁、小林、三木である。


“中だるみ”が一つのテーマになっているが、関係の弛緩ばかりか、下半身のそれも指して、1作目から続く中高年の性の問題がここにも顔を出す。観客にはそういう層を考えているということである。性的なあてこすりが随所にあって、これは駅前旅館シリーズでも顔を出すもので、日本映画を支えていた層が伺い知れる。


森繁の妻が久慈あさみで、ストッキングを脱ぐのを見て、その気を起こす森繁。あるいは、鳥羽のホテルに新珠美千代を呼び出して、事に及ぼうとするときに、「いい薬があるんだ」と言い出す。小林桂樹が朝、なかなか起きないのを妻の司葉子が「あなたは変わったは」とちょっかいを出そうとする……などなど性的な表現があちこちに埋め込まれている。それを観客はきっと夫婦で楽しんだのではないだろうか。外国なら絶対成人向けになってしまうだろう。


社長えんま帳
シリーズ30作目で、弛緩している。秘書が関口宏小林桂樹の妻の妹が内藤洋子、この2人が大根。外部から補強してやりくりしようとするときには、もう終わりに近づいているのである。営業部長が小沢昭一である。やはり三木のり平で見たいものである。藤岡琢也が変な日系外人を演じるが、ツーマッチである。社長はセスナで営業に飛び回る。


社長忍法帖
シリーズが終わっても、館主の要望が強く、その声に応えて新シリーズを始めた一作目。たるみもなく、三木のり平のギャグが効いていて面白い。とくに、盗聴器を使って、すぐ隣に座る森繁と会話するシーンは吹き出した。池内純子が追っかけ芸者、久慈あさみがちょっと色っぽいかみさん、札幌のバーのマダムが新珠三千代小林桂樹が技術部長、フランキー堺が札幌支社の社員、東野栄二郎が北海道の有力者といった陣立てである。新珠がバーのマダムが似合うのも不思議である。どうにも貞操の固そうな感じに見えるのだが。彼女のコメントを聞きたいものである。よく見ていると、やはり森繁は何かしゃべり終わったあとに、ちょっとした仕草をしている。それが彼の特徴なのだろう。