10年6月から

43 「沈まない太陽」(新文芸座)組合運動の中心人物が冷遇され海外を転々、日本に戻ってからは墜落事故の事後処理を任される。新社長が関西の繊維会社から迎えられるが、首相の使者は曰くありげなフィクサーという設定(どうも時代がかっていて笑える)。新社長…

2010年の映画

去年の収穫は、足を運んで映画を見ることの大事さを改めて知ったことである。「母なる証明」も「シリアの花嫁」「キャラメル」「母のおもかげ」「戦場でワルツを」も印象に残る映画は映画館で見たものが多い。それにタイや中近東、南米あたりの映画に秀作が…

09年12月の映画と1年のまとめ

152 「アンヴィル」(T) ドキュメンタリー映画である。デビュー当時は注目されたヘビメタグループが、その後、鳴かず飛ばず。日本にも来たことがあるという。それから20年、もとのメンバーはボーカルとドラマーの2人。一人は惣菜関係のデリバリーの仕事、一人…

09年8月からの映画

87 「トレインスポッティング」(D) 10分で沈没。ユアン・マクレガーの初主演? 88 「ごくせん」(T) 見ちゃいました、泣きました、それもずっと。熱いっス、セリフが臭いっス。 やっと「ヤンキー文化論」が立て続けに出て、オタクやニートとは違う在り方が注…

小津を斜め後ろから

ほかで散発的に書いていた小津がらみのものが増えてきたので、ここに別に立てることにしたが、その移動作業を間違い、「風の中の牝鶏」と「東京物語」の評を無くしてしまった。うろ覚えで書いておくが、改めて見て感想を記したい。「小早川家の秋」もけっこ…

09年5月からの映画

53 「グラントリノ」(T) イーストウッド主演、監督である。もとフォードの工場に勤めていた頑固じいさんがイーストウッドの役柄。その彼の隣りにベトナム人のモン族がやってくる。その地域自体が黒人やアジア系のちんぴらが跋扈する状態で、それを彼は嫌悪する…

09年の映画

また新しい1年である。酒とテレビの正月が終わって、また酒と仕事の日々への復帰である。今年は別項で進めている木下恵介作品評価をもっと進めたいし、それに、アステア周辺のミュージカル物も、いろいろ探って楽しんでみたい。溝口作品も溜め込んでいきたい…

なよなよと強く――溝口健二序説

あちこちで書いた溝口映画評をここにまとめていこうと思う。溝口、小津、木下はぼくの三大食わず嫌い監督である。一番が木下、次が溝口、そして小津である。小林信彦御大の『一少年が観た聖戦』で小津に触れた箇所がいくつかあるが、自分が好きなのは芸術映…

2008年10月以降の映画

*「網走番外地 悪への挑戦」(D) シリーズ9作目、舞台は九州博多。67年の作で、石井輝男監督。健さんのふるさとである。この映画、タイトルからして矛盾がある。網走帰りのヤクザが正義を名乗るのである。しかし、そこは健さんだから、みんな大目に見るので…

2008年8月以降の映画

*「バルビー」(T) 入館料千円のせいなのか、シアトルシネマが満杯。これは冗談で、やはり中身が評判を呼んでいるのだろう。戦後も図太く生きて、奇怪な役回りを演じたナチ将校バルビーを扱ったドキュメンタリーである。 冷酷な拷問者、子供まで収容所に送り込…

2008年7月までに見た映画

*その時々の映画 映画館で映画を見ることが少なくなった。都内にでも住んでいれば、単館ロードショーを見まくるのだが、都会を遠く離れて住む者には、そういう贅沢は許されない。どなただったか、東京とそれ以外では映画的環境がだいぶ違うので、東京目線で…

木下恵介はなぜ天才なのか

*やわらかい監督 木下恵介といえば「木下恵介劇場」である。小学生の頃のことなので、よくは覚えていないが、ホームドラマの元祖のようなイメージである。黒澤などと「四騎の会」を作る前に、木下はテレビにも活躍の舞台を広げ、黒澤は自分も一時その気になった…

初めての川島雄三

*煮え切らない男 これからおずおずと川島雄三の映画について思いついたことを書き記していこう。まだ数作しか見ていないので、何を言おうにも根拠がなさ過ぎるが、それでも自分用のメモとして残しておきたいと思う。 昨年の秋に京橋のフィルムセンターで川…

好きな日本映画

*あえて10本 「アステアとジンジャー」の項が思いのほか長くなった。気分転換もかねて和ものでいこうと思う。題して「好きな日本映画」。ベストテンと名乗るほどの蓄積もないので、思いつくままに10本ほど好みの映画を挙げていこう。いまさら小津や溝口でもない…

アステアとロジャース

*アステア・ジンジャー物、総点検 版権切れの特価DVDには意外なほどミュージカル物が多い。「雨に唄えば」「巴里のアメリカ人」「ショウ・ボート」「イースター・パレード」などは、その種のものを買って見ている。 どういうわけか、ぼくがミュージカルを追いかけ…

ミュージカル初入門

*音楽物というジャンル 去年「プロデューサーズ」というミュージカルが封切られた。さほど評判にならなかったが、ぼくは十分に堪能した。ミュージカル・コメディという分野があるということを初めて知った。小ネタの連続で、大笑いをしてしまった。 ところが…

監督という仕事

*野田高悟、橋本忍 高橋治の「絢爛たる影絵」、そして橋本忍「複眼の映像」、この2つの著作に触発されて、簡単に監督の仕事って何か、ということについて考えてみたい。 どちらもすこぶる付きの面白い本で、小津と黒澤という二大天皇の創作の秘密に肉薄したス…

リアルということ

*新しいリアル 溝口健二の「浪速悲歌(なにわエレジー)」を見た。1936年の作品である(翌年、「祇園の姉妹」を撮っている)。DVD解説は新藤兼人がやっている。溝口の弟子で、「ある監督の生涯」で溝口の軌跡を関係者の証言で追っている。その新藤が、「浪速悲歌」…

今村昌平、カッコ付きリアリズム

*スコセッシと今村 NHKのETV特集「今村昌平に捧ぐ―スコセッシが語る映画哲学」の録画を友達が送ってくれた。スコセッシはNY大学の映像科に在籍していたときに、「にっぽん昆虫記」に接したという。爾来ファンであり続け、後年カンヌで会った折に、たま…

I can’t stop loving them.―愛する洋画10作

*陳腐なラインアップ これから自分の好きな映画を挙げていこう、と思う。でも、好きな映画って? なぜ自分は茶碗蒸しや納豆が好きなのかと考えることに意味がないのと同じように、あまり生産的なことではなさそうだ。自分の女の好みを力説しても、「ああ、そ…

        二重性の震え―俳優ノートン覚え書き

*役者を論じる ある一人の俳優のことを語りたい。個性派の役者というのは、たくさんいる。しかし、気になる俳優というのは、そういるものではない。異性の俳優であれば、憧れで見続けることも可能だが、同性となると、特殊な趣味でもないかぎり難しい。 つ…

        不思議な監督─ガス・ヴァン・サント

*冴えないパッケージ、すごい中身 ロシア映画に「父帰る」というのがある。DVDのパッケージには「シックス・センス」のオスメント君のような少年が写っている。ぼくはてっきりオスメント君の映画だと思っていて、友人に勧められても、オスメント君の映画ではね……

       宗教・不能・母─マーチン・スコセッシ小論

*mother & religion スコセッシは映画ばかりかTV番組を製作したり、実に多作な監督だ。役者としての顔もある。確か若きころスダンダップ・コメディアンだったはずである。 30本近く映画作品があるが、初めての長編が「誰がドアをノックする」で、1967年の作…

「受け」の人―森繁久弥

*「夫婦善哉」の絶妙な味わい 渥美清は森繁久弥を目指していたという。コメディアン出身でシリアスもできる役者の頂点といえば、誰しも森繁に指を屈するだろう。渥美は浅草の舞台でも、ちょっと出てはほかの芸人のお株を奪うような攻めの演技の人だったらしい…

なぜ夫は妻を殺したがるのか?―小コーエン論

*名作「ファーゴ」 コーエン兄弟の映画を立て続けに見たことがあった。「バートンフィンク」(91)「ファーゴ」(96)にやられたからである。「ブラッド・シンプル」(84)「赤ちゃん泥棒」(87)「リック・リボウスキー」(98)「オーブラザー」(00)「バーバー」(01)「レディ・キラ…

猥雑、そして静謐―成瀬巳喜男讃

*明るい静謐さ 成瀬作品は90本近くある。黒澤、溝口、小津のあとに海外で評価が高まった監督ということになる。小津調の作品から抜け出し「芸道もの」と言われる分野で個性を出し、戦後は低迷期が続き、51年に「めし」、53年に「浮雲」を撮って復活を遂げた――とい…

おお! レオン!

*リュック・ベッソンの傑作 リュック・ベッソンの映画はけっこう見ているほうかもしれない。といっても、監督作品は意外と少なく、「ジャンヌ・ダルク」を抜かして「グランブルー」「レオン」「フィフスエレメント」「アンジェラ」、製作・脚本では「ニキータ」「ヤマカ…

ひとの善意を試験管に入れて―――ラース・フォン・トリア

*「ドッグヴィル」の衝撃 「ドッグヴィル」をなぜ見たのか、判然としない。新聞評を読んだのか、広告を見たのだったか。あるいはニコール・キッドマンの映画を何となく気になって見ていたので、そのせいで関心がいったのだったか(小林信彦の新刊「映画が目にし…

 「死」から見たアメリカ    ―サム・メンデスの世界

*What's American beauty? 久しぶりにサム・メンデス「アメリカン・ビューティ」を見た。格安950円でソフトが買えたからだ。ほかに「MI:Ⅰ,Ⅱ」の2本を買った。北海道美唄市のイエローグローブというホームセンターでワゴン売りされていた。 サム・メンデス作品…

背中(せな)の銀杏と緋牡丹が  泣いている

*棒を飛ばすような話し方 健さん(高倉健)がいまのようなぶっきらぼうな話し方になったのは、いつの頃からなのだろう。ぼくは小学生のときに「網走番外地」シリーズを見て、健さんに惚れた口で、あのときはすでにいまの投げ出したような、棒のような話し方にな…